わたしたちのリアル

写真一枚に込める思い:デジタルがくれた表現の喜び

Tags: デジタル, 写真, 学び, 生きがい, 繋がり

人生の余白に芽生えた小さな興味

長年勤め上げた会社を退き、時間にゆとりが生まれたものの、私はどこか心にぽっかりと穴が開いたような感覚を抱えておりました。趣味はいくつかありましたが、日々の生活に何か新しい彩りを見つけたい、漠然とそのような思いがありました。

ある日、訪ねてきた孫がスマートフォンを器用に操り、撮った写真を加工している姿を目の当たりにしました。色合いを変えたり、不要なものを消したり、まるで魔法のように写真が変化していく様子に、私は素朴な驚きを覚えました。それまでデジタル機器にはあまり縁がなく、操作も難しいものと思い込んでおりましたが、孫の楽しそうな顔を見ているうちに、自分にもできることがあるのかもしれない、という小さな好奇心が芽生えたのです。

戸惑いから確かな手応えへ

思い切って、孫にスマートフォンの基本的な使い方を教えてもらうことにいたしました。最初は画面の触り方一つにも戸惑い、なかなか思うように指が動きませんでした。若い頃から機械には疎い方でしたから、無理もないことと自分を納得させながらも、正直なところ、諦めそうになる日もありました。しかし、孫は根気強く、私のペースに合わせて教えてくれました。また、地域の公民館で開かれている初心者向けのスマートフォン講座にも参加してみることにしました。そこでは私と同じように、デジタルに不慣れな方々が多く集まっており、皆で助け合いながら学ぶことができました。

まず私が取り組んだのは、長年撮りためた紙の写真をデジタル化することでした。色褪せかけた家族の写真や、遠い昔の旅行の風景が、デジタルデータとして鮮やかに蘇るのを見た時、深い感動を覚えました。これは単なる写真の複製ではなく、過ぎ去った時間と再び対面するような、不思議な感覚でした。

次に、スマートフォンのカメラ機能を使って、身近な風景を撮り始めました。朝日に輝く庭の花、雨上がりの雫、散歩中に見かける野良猫の表情。何気ない日常の中に、これまで気づかなかった美しさや面白さが隠されていることを知りました。一枚一枚の写真を撮るたびに、心が洗われるような穏やかな気持ちになりました。

写真が繋ぐ新たな世界

そして、いよいよ写真加工アプリに挑戦しました。明るさを調整したり、コントラストをつけたり、少し色味を変えるだけで、写真の印象はがらりと変わります。自分の内にあるイメージを、写真を通して表現できる喜びは、筆舌に尽くしがたいものでした。まるで絵を描くように、あるいは詩を詠むように、一枚の写真に自分の思いを込めることができるのです。

ある時、撮りためた写真の中からお気に入りの数枚を選び、家族に勧められるがまま、とある写真共有サイトに投稿してみることにしました。まさか誰かの目に留まることなどないだろうと思っておりましたが、数日後、見知らぬ方から温かいコメントをいただいたのです。「この写真を見て、心が和みました」という短い一文でしたが、その言葉は私の胸に深く響きました。自分の表現が、誰かの心に届くという経験は、それまでの人生では味わったことのない喜びでした。

それ以来、私は積極的に写真を撮り、時には加工を施しては、定期的に共有サイトに投稿するようになりました。私の写真に共感してくださる方々と、オンライン上で言葉を交わすようになり、そこには世代や住む場所を超えた、新しい繋がりが生まれました。時には、私が写し撮った場所について尋ねられたり、写真の撮り方について質問されたりすることもあり、自分の経験が誰かの役に立つことの嬉しさを感じております。

新しい挑戦がくれる豊かさ

人生の後半に差し掛かり、まさかデジタルツールを通してこれほど新しい世界が拓けるとは、想像もしておりませんでした。かつては、デジタル機器は若い世代のものであり、自分には関係のないものと決めつけておりましたが、一歩踏み出してみることで、多くの発見と喜びが待っていたのです。

この経験を通して私が深く感じたのは、新しいことへの挑戦に年齢は関係ない、ということです。そして、たとえ小さな一歩であっても、それを踏み出すことで、思いがけない出会いや、社会との新たな繋がりが生まれるという事実です。デジタル写真は、私にとって単なる趣味を超え、内面を表現する手段となり、そして何よりも、閉ざされがちだった私の世界を大きく広げてくれました。

これからも、私は写真を通して世界と向き合い、そして、見知らぬ誰かに、一枚の写真から温かい気持ちが届けられることを願って、この小さな挑戦を続けていきたいと思っております。